2016/10/27

恐ろしさと願い




4年前に皆既日食を東京で見ることができた。
その日は早起きをして、近所の井の頭公園まで出向いた。
橋の上には、橋が落ちてしまうのではないかと思うほどたくさんの人。
皆同じ方向を見て、決定的瞬間を待ち構えている。
昔の人は、こんな光景を目の当たりにしたとき
きっと世界が終わりを予感したのかもしれないな。
どうか、今日がいい日でありますように。
影に浸食されいく太陽をみながら、私は思ったのだと思う。


2016/05/20

植物図鑑1

























2015年8月の終わり、庭作りの為に雫石へやってきた。
雫石は曇りが続き、やや肌寒いくらいだった。
朝6時に起きて、鶯宿温泉街を散歩するが、誰一人としてすれ違わない。
空気はひんやりと湿気を含んでいる。
いつかの夢で見たようなものばかり目に入る。
朽ち果てた倉庫や、傾いたスナックの看板。
雑草の生い茂る荒れ果てた空き地。ころがるブロック塀。熊出没注意。
寂しい。
スピーカーからひび割れた音で朝6時半の合図を告げるチャイムが鳴る。
作業への集合までは、まだ1時間程あったので、宿に戻り
真っ白なシーツに顔をうずめる。
洗濯のりの匂いと花の色だけは、故郷から遠く離れていたって
重力をたっぷりとかけれるような安心感をいつも与えてくれると
思いながら、また少し浅い眠りに入った。




2016/02/11

人はどの色より緑の中で最も目が利く



サトルさんが、自分で作った平屋の模型を手にして、
「土壁の家を作るぞ、その辺りの子どもたちを集めて、皆で壁をパンチするんだ
土壁は空気を抜くことが大事だけな」
と熱のこもった調子で話していたのはかれこれ10数年も前の話だと思う。
私は当時、今よりももっと夢見る少女で、その話を聞くたびにワクワクしたものだ。

10数年して、サトルさんは初めて”夢の土地”を案内してくれた。
雨上がり、山土がぬかるむ日に、私はお気に入りの緑色の靴でこの場所を訪れたことを
やや後悔している。靴を洗うのはあまり好きな作業ではない。

杉の木がぎっしりそびえ立つ、日向の少ない小道。
螺旋状に続く小道を辿って行くと、
空が高く開けた土地があった。
平屋を建てるであろう場所の周りを取り囲むように
柿の木やレモンの木、名前のわからない柑橘の木が植えられている。
サトルさんの現実的な説明を聞きながら、
もし自分がここで暮らすとしたらと想像すると、真っ先に熊のことが不安になった。

「ここは熊は出るか?」
「ここは出らせん」

けれど山は繋がっている。
街灯もなにもない山の中で、暗闇に人間が住む恐怖が私を襲う。
もし熊が出てきたら、私はその時、勝てるだろうか
何を武器に戦う?
フライパンで顔に一撃するのか

そんなことを考えていたら、山の奥に大好きな藤の花が見えた。
柔らかい藤色は、恐怖を一瞬にして持ち去って行った。